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あけのみつたかのステートメント【海のテーマ】

公開日: : 最終更新日:2021/08/01 あけのみつたかの表現哲学・キュレーション

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以前片男波の海浜に行った時、一人で隆起している砂浜を上り海景をスケッチしていた時のこと―

まだその頃は海景を描くことを覚える前で、故郷の奈良の呪いか、まだ私は海を描き切ることができないでいる。

私がいう「海を描き切る」というのはスケッチもせずに一層で描き切るという意味であり、アトリエに戻って何度も醜い修正を繰り返しながら描くことは私にとっては本当は在ってはならないのである。

とにかく、遠く遠洋を望みながら初めて海というものをまじめに描いたのがその日であったように思う。


遠く、遠洋から「海は彼岸と此岸の境」という声が聞こえたように思う。確かに、想えばイタリアはカプリ島のキリスト教のある宗派は海にマリア様の等身より少し大きめな像を流す習慣があると聞く。

また日本にも灯篭流しの文化は京都や広島など、全国各地にあり、一つとは言わず、海に灯篭を流す習慣のある地域もある。

言わずもがな灯篭は死者を弔う意味合いで始まっており、彼岸に住まう先の者に対して祈りをささげている。

そのように海を隔てて彼岸と此岸の境目があるという認識は昔からあった認識ではなかろうか。

そうすれば私が海を描くとき、それは彼岸に向かって描いていることが多いはずであるから、なんらかの想いのこもった言葉であったのだろう。

それから私は憑りつかれたように海を描き続けている。しかし、未だにそのすべての情緒を描き切れたとは毛頭思っていない。


翻って遠洋から船に乗って我々の住む大地を描くことも不思議だ。

まるでそれは、私たち一人一人が生きておりながら、彼岸の住民と同じように人々やその暮らしをながむる姿にも似ている。

彼岸の世界が私たちに近づき、あるいは離れていく波のように代わる代わる押し寄せるのであれば、私たちがやってきたであろう彼岸の世界というのはそう遠い世界でもなかろう。

それは私たちの心の中に在り、私たちの見る世界はあらゆるものの表像であり、私が森羅万象を語るには憚られる思いがあるにしても、しかしこの世界はそう思えばよく出来すぎている。

木の葉一枚落ちる姿の中にも、人間の心の動きは隠されているようである。

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