アーティストの制作活動とそのモデルについて
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あけのみつたかの表現哲学・キュレーション
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私が画家として道を歩み始めてもうすぐ6年経ちます。
その間、様々な方法を試し、自分の生きる道を探してまいりました。
また作品自体にも様々な工夫を凝らし、版画の新手法である「RG」などの開発にも着手してまいりました。
しかし、この5年余りの間に、私自身が試し、あるいは、発見してきた道というものはそう多くはありません。
「絵を描くことを止められない体質」である以上、この活動とどのように向き合っていけばよいのか、またその先に未来はあるのか。
長い時間をかけて、私は道を模索してきたわけです。
アーティストとして生きていくための三つの道とは
アーティストとして生きるには三つの道があります。
それは「収入を制作物で作っていく道」と「莫大な財産や収入によって、フルに制作時間を使っていける道」、そして「制作を完全な余暇として、生活時間の合間をぬっていく道」です。
この三つがあると思います。
それぞれにメリット、デメリットがありますが、より良い道を選ぶためには、自分の制作態度を謙虚に見つめてみることが大事だと思うのです。
制作そのものを収入源にする場合のメリット・デメリット
まず制作そのものを自分の主な収入源にしてしまう方法ですが、この方法には制約が付きまといます。
というのも、少なくともここ4~50年余りのアート市場の歴史を見てみると、「一目でわかるような強烈な個性」というものがないとなかなか継続して収入源にしていくことは難しくなっているようです。
画廊、すなわち販売側としては「ある程度の安定した人気を既に持っている画家であり、なおかつその人気を永続できるかどうか」というのが取り扱うか否かの裁定基準であるのです。
もちろんこれは物故作家にもある程度当てはまります。
要は「投資対象足りうるか」が大事なのです。
そのためには、安定した人気をすでに持っていなければいけないため、下積みとしてたくさんの展示等に参加して露出を増やしていかねばなりません。
そして制作の段階である程度の「制限」がかかるわけです。
流行の中心にいる作家の苦悩
人間の寿命はせいぜい80年ほどですが、その間に「強烈な個性」というものを体得せねばならないのです。
しかし国内外の現存作家を見ると、いわゆる「個性」というものが単なる上辺だけのものになっていることが多くあります。
その典型的なパターンが「人気のモチーフしか描けない」というものです。
例えば、近年は美人画の人気は目覚ましいものがあり、特にリアリズムに特化した美人画というのが最近のトレンドのようです。
これは日本独自のトレンドではなく世界中で起きつつある「流行り」です。
「こういった流行の中心にいる作家はさぞかし気持ちよく制作に没頭しているであろう」と思われがちですが、実はそうでもないのです。
私はいくつかの人気作家の動向や私自身の考えと照らし合わせてみた経験上、流行の中心にいる作家はほとんど「抜け殻のようになっているらしい」ということが分かるわけです。
そういったことが現実にはあります。
ですので「人気が出ればとにかくよい」という発想は必ずしも正しいものではないのです。
働かずに生活できるようになると人は「堕落」する?
では二番目の「莫大な財産や収入によって、フルに制作時間を使っていける道」はベストなのかというと、これも決して喜ばしい結果にならないことがあります。
というのも、人の性として「何もしなくても生活できると堕落する」という部分があるからです。
これは中世ヨーロッパの貴族たちや、古い話では古代ローマでも同じようなことがありました。
要するに「働かざるもの食うべからず」のことわざ通り、描かなくても生きていけるということが一つの「甘え」になってしまうのです。
これはもう一段突き詰めて考えてみる必要のある問題だと思っています。
よほどの創造性の塊でなければ、「生活がギリギリの状態で、そこから解放された時間に「ダムの放流」のように一気にやる気がほとばしる」というような現象を否定することはできないのです。
この選択肢にもこういった問題があるわです。
生活時間の合間をぬって制作するとエネルギー効率がいい?
そして、三番目の方法として「制作を完全な余暇として、生活時間の合間をぬっていく道」というものがあります。
日本人は「社畜」という言葉が流行っているようで、とにかく自由というものを絶対的な価値観としている部分があります。
これは確かに「日常的に、仕事で連日家に帰れない」というようなことが現実にある以上、ある程度正しい部分はあります。
ですがそれ以上に「自分の力量がどれぐらいか」という部分を考えなければいけません。
先ほど言ったように「ダム型」で自分の一日のバイタリティを確保できない人、計算できない人には作家活動を続けていくのは難しい面があるのです。
私自身を例にとってみましょう。
私の作品は基本的に油彩画ですが、制作の意欲といいますか、バイタリティの回復期間が大体「一か月」です。
それぐらい何もせずにおいておくと、絵の具が触りたくなったり、鮮やかな色を使ってみたくなるようです(笑)
そして、完成にかかる時間ですが、最近はこの「作る時間」というものが非常に長くなっており、じっくり作品を煮詰めていくといいましょうか、しっかり作品を作っていくことに非常な喜びを感じるのです。
ですので、油彩画の指触乾燥が完全に終わる1週間経った後でも、じっくり作品を観察している時間があるわけです。
なので、作品によって完成までの時間はまちまちなのですが、今までで完成までにかかった時間が最も長かったのが「一か月半」です。
それぐらいで80号のキャンバスを仕上げておりました。
なので制作のクオリティとバイタリティを継続するには、今のところ「一か月の充電→2週間から一か月半の制作→一か月の充電」といったリズムで動いています。
もちろんいつもこの通りというわけではないのですが、大体こんな感じです。
そして、この制作時間のリズムは別の仕事をしていても十分実現可能なことはお分かりかと思います。
もちろん「5時出社の5時退社」では、なかなか制作できないでしょうから(笑)、ある程度業種は限られますが、不可能ではないのです。
こういう方法もあるわけです。
ですので自分の制作態度がどういったものかを謙虚に見つめて、ある程度の期間「トライアル」で、いろいろな道を目指してみることが肝心なのではないでしょうか。
そして、主に作家と呼ばれる人が歩む道筋はこの3つに集約されることを意識しながら、これからの道を歩んでいくことをおすすめいたします。
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